ヒューマン・サービスあるいは関係性という「品質」

大学院以来、ヒューマンサービスのあり方を試行錯誤して追求してきたが、今日は、ヒューマン・サービスに専門特化した大学(神奈川県立保健福祉大学、この大学、英語ではKanagawa University of Human Servicesと表記)からお呼びがかかり、「ヒューマン・サービスの人材育成」というコッテリしたテーマで、招待講演をファカルティ・デベロップメント(FD)の一貫としてさせていただいた。

実はこの大学で客員教授もやっているのだが、そのような流れでFDに協力することになったのだ。

人材のコンピテンシーはヒューマンサービスの質を左右する、という仮説のもとで、複数の病院の看護部門でコンピテンシーの調査を行ったことがある。当初は、専門的能力(テクニカルな知識やスキル)こそが、看護サービスを左右するという第二仮説をだれもがうたがわなかった。もちろん、ぼくもナイーブにもそう思っていた。

でも、実際にアンケートやインタビューで実証的に調べてみると、専門的能力以上に、対人関係構築力、対人感受性、イニシアチブといったソフトコンピテンシーのほうが、ハイパフォーマの行動的性を説明する要因として高いことが明らかになったのだ。

これは、ちょっとイヤラシイ結果だ。多くの看護系の大学では、専門的能力の構築を中心としてカリキュラムが作られている。なぜならば、看護師という国家資格を得るための国家試験では、看護師としてのテクニカルな知識やスキルを重点的に評価する仕組みになっているからだ。でも、じつのところ、デキるナースは、国家試験でカバーされない行動特性ゆえにデキるのだとしたら、その国家試験には大きな「見落とし」があるということにもなりかねない。

いやはや。

なにか、エレガントに説明できるフレームはないものかと、ツラツラ思いを馳せながら、6月に参加したNaples Forum on Servicesという国際学会で、フィンランド、スウェーデン、ノルウェイ、デンマークあたりからやってきた研究者や実務家がしきりと、関係性品質(Relationship quality)をさかんに議論してるではないか。

調べてみると、関係性品質とは、ノルディック学派の中心的研究者であるグメソン博士らが、提出したコンセプトである。

なるほど!

たしかに、専門的能力は、技術的品質(Technical quality)を左右するが、関係性品質は、技術的品質とはベツモノであるととらえればスッキリする。対人関係構築力、対人感受性、イニシアチブというソフトなコンピテンシーは、関係性品質に直結する能力・行動特性、というようにとらえれば、一歩も二歩も前進する。

医療界では、「質」といえば、かのドナベディアンが唱えている、成果(Outcome)、プロセス(Process)、構造(Structure)を中心として見てゆこうというマインドセットがかなり影響力をもってはいるものの、これらとは独立に関係性品質を置くと、またべつの世界が見えてくる・・・。

とすれば、デキる看護師は、皮膚感覚的に主観的な質を左右するものとして関係性が極めて重要であることを知悉し、たえず、良好な関係性そして関係性品質を患者、家族、医療チームといった医療・看護サービスのステークホルダと紡ぎだしているのである、とも言える。

医療安全とて、絶対的な安全レベルが客観的な言語で定式的に記述されうるのかと問われれば「???」だ。安全だって、主観的な知覚品質の領域に入ってくるはずだ。このあたりの話は11/2-3に行われる医療マネジメント学会の医療安全分化会の講演で議論してみたい。

このあたりをモデル化できれば面白そうだ。

するどい質問が会場からあり、その質問に答えたことを帰りの電車のなかで反芻していたら、新しいモデルの着想を得た。

 

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