「輪廻転生:<私>をつなぐ生まれかわりの物語」

カテゴリー : No book, no life.

読書の秋にふさわしい一冊の本が友人から届いた。

まれびと・奇(貴?)人の竹蔵史人氏が最近出版した「輪廻転生:<私>をつなぐ生まれかわりの物語」という力作だ。9月20日発行となっているので、今日はそれより4日ほど前になる。

できたてほやほやの新書からそこはかとなく沸き立つようなページとインクの香りが心地よい。

かなり前の話になるが、かの奇人と僕は東工大のとある大学院生向けの上田紀行教授の授業をいっしょにとっていた。授業といっても、学生はたしか4人しかいなかったので、毎回、ワイワイガヤガヤあの世、イタコ、魔術、悪魔祓い、生まれ変わり、聖霊、仏教、ダライラマ、神学理論などの議論に花が咲き、上田先生のオープンかつ談論風発を好む奇特なキャラも手伝って、知的刺激が横溢する豊饒な時間に満ちたクラスだったのだ。

それ以降、ソファに寝袋が無造作に拡げられ、カップラーメンのカラなどが転がっている西7号館の彼の研究室をふらっと訪ねては、霊魂の実在、生まれ変わり、スピリチュアリティなどいろんな話をしてきた。たまに呑んでも、だいたいこのような話題から逸脱することはなかった。この本のモトとなる彼の、丹念な考証と大胆な構成を展開する修士論文も読ませてもらい、静かに唸ったものだった。

さて、この本に俄然注目する理由を3点のみ書き留めておきたい。

一つめは、リベラルアーツの視点からだ。自由に、より善く生きるとはいったいどのようなことなのかに思索をめぐらせるうえで、この本はとても味のある触媒効果に満ちている。イビツな現代日本では、とかく隅っこの隅っこに押しやられ隠蔽されやすい死。だから視点を転換して、死ぬことを基点にして、その前の生を考える。ついでにその後の生も。これバックキャスティング思考の応用。

生まれ変わりに関する古代インドの動向や19世紀のフランスを中心とした心霊運動、そして現代のニューエイジ・ムーブメントが手際よくまとめられ紹介されている。オリジナルの修士論文とは異なり、かなりポイントを絞り込み、分かりやすく噛み砕いた説明になっていると思う。

幸い参考文献リスト(p217~)も充実しているので、それらをたよりに関連する文献を渉猟することもできるだろう。

二つめは、保健医療福祉マネジメントの視点。多死社会の到来、サービス経済化、資本主義の根本的変質を受け日本はケアシフトをとげつつあり、死生観もその例外では決してないのだ。死ぬことがすべてのthe endではなく、死後の世界を受けとめ、生まれ変わりを「心的な構え」として持つことは、キュア(治療)やケア(支えあい)にとって決定的に重要な意味を持つということだ。

死生観の構築こそが、生存転換の、そしてケアシフトの一大テーマを構成する。その際、本書で示されているように、宗教を問わず世界に広く受けとめられている輪廻転生、生まれ変わりのアイディアは新しい死生観の扉を開くことになる。

QOLの向上が見込まれない胃ろう造設術を無理やりやったり、治癒回復の見込みがないにも拘わらず投薬、手術などを過剰に行うよりは、緩和ケア的アプローチのほうが結果としてQOLの維持には資することが多い。「近代病に罹患した日本社会の末期症状」(p214)は案外、地域の病院の臨床現場において顕著だ。

その際の、輪廻転生という生き方・死に方というアイディアは「隠された医療資源」といっていいほどの意味を持つことになるだろう。さいわい本書でも丹念に分析されているように、日本には①再生型(p25~)、②輪廻型(p57~)、③リインカネーション型(p99~)の3種類の輪廻転生の物語、がいささか断片化しつつも文化基層に隠されている。これらを掘り出して、自分にふさわしい死に方、生まれ変わり方を構想するとき、本書は有用なガイドブックになること請け合いだ。

余談めくが、仏教看護のようなアプローチも、②輪廻型(p57~)を前面に押し出せば面白い展開になるだろう。

三つめは、東西古今にまたがる輪廻転生の文脈<コンテクスト>の脈絡だ。江戸時代の偉大な知性、平田篤胤が発掘しテキスト化した「勝五郎再生記聞」がラフカディオ・ハーン(小泉八雲)によって英訳され西洋社会に伝えられた。この英文テキストに接したイアン・スティーブンソンは、大いに触発され前世記憶の大研究に着手していったのだ。その後スティーブンソンはヴァージニア州立大学に篤志家の財政的援助を得て、輪廻転生、生まれ変わり研究の専門研究所、The Division of Perceptual Studies (DOPS)を設立しているのである。

秋の長夜、この本を片手に輪廻転生、生まれ変わりという観念が伝播していった東西古今のトラジェクトリー(軌道)に思いをはせつつ、ちょっと自分の生死を拡大して眺めてみるのも一興だろう。