自然資本と有機農業

カテゴリー : アグリ・農的あれこれ

 Portland Farmers Market Bounty

 

「土と健康」という雑誌と東洋学園大学の古谷力先生のfacebookのエントリーを眺めていて、パッと面白いアイディアが浮かんできた。「自然資本」(natural capitalism)という考え方で有機農業を捉えてみるというアイディアだ(笑)。

さて、世界自然資本フォーラム(World Forum on Natural Capital)では「自然資本」を:

Natural Capital can be defined as the world’s stocks of natural assets which include geology, soil, air, water and all living things.

と定義している。

通常、会計学や新古典派経済学でいうcapitalには自然資本は含まれない。近代資本主義は、産業資本主義であり、MBAやMOTの枠組みでも資本(純資産)は下のようにとらえるのがまずは一般的だ。資本の限りない自己増殖の過程そのものが近代資本主義だ。

 

資本剰余金・利益剰余金

近代資本主義あるいは産業資本主義には未開の機会=フロンティアが必要だ。だから、資本増殖のプロセスで人間はいろいろと介入(略奪、搾取、破壊・・・)してきた。

土壌から石炭、石油、核燃料の原材料を採掘してエネルギーにする。製造業ではいろいろなマテリアルとして加工し付加価値をつける。製品を輸送する際のジェット機や車両のエンジンからは廃棄ガスが環境に放出される。牛やブタ、鶏などのエサには抗生物質が入れられそれが食物連鎖を通して人にも蓄積される。3.11以降、放射性物質が環境に大量にばら撒かれ、生態系はおろか人間活動システムにも甚大な影響を与えている。

しかし、世界的な低金利でもうあまり儲かりそうなフロンティアが目減りしている。実態経済ではなくサイバー化された金融空間に金融緩和で過剰につくられたマネーが集まり、そこでバブリーな投機が繰り返されている一方で、「格差」は拡がる一方だ。トリクルダウンなんて嘘八百。

さすがに、これじゃマズイということで、資本主義のあり方がずいぶん反省されたり批判されたりしてきている。大はトマ・ピケティの「21世紀の資本論」とか、小は「近代資本主義の次」など。

自然資本の考え方は、従来の経済学のアプローチやマルクスの資本論、新古典派経済学の枠組みをいったんヨコにおいて、根っこのことろから揺さぶりをかけるようなものだ。

自然資本でとらえる資本とは、水、土壌、大気、そして動物、植物が含まれる。

「自然資本」は、多様な生物(植物相、動物相)と、それらをはぐくむ水、土壌、大気など、地球の自然財産を要素だ。私たち人間の生活や活動システムは、自然資本に起因する生態系サービスの4類型(調整サービス、文化的サービス、基盤サービス、供給サービス)によって成り立ち、そこから計り知れないほどの豊かな恩恵を受けている。

ただし、その恩恵に世界が気づき始めたのは、けっこう新しいことで、世界銀行が主導して「WAVES(生態系サービスの経済的価値評価)プロジェクト」を、名古屋で開かれたCOP10を契機にローンチしたのが2010年だった。

 

従来型のMBAやMOTというアプローチでは産業資本主義によって立つので、環境略奪、搾取、破壊の側面は「負の外部性」ということになる。「負の外部性」ではなく、「内部」にキチンととりこんでマネジメントしてゆくためには、根っ子のところで、産業資本主義の考え方ではなく、自然資本主義の考え方への転換(translational change)が必要だ。

「より遠くへ、速く、効率的に、貪欲に己の利潤を求め、成長する」ということを近代資本主義の行動様式と見立てるなら、近代資本主義の次は「よりローカルに、ゆっくりと急がずに、意味を紡ぎ、他者の利益を満たしながら、自然に寄り添って、身の丈にあったスタイルで持続してゆく」というものになるのかもしれない。その基盤には自然資本のような構えが必要になってくるだろう。

 

さて、有機農業をエコシステムのサービスという視点でざっと見てみよう。

 

①有機農業の供給サービス

「提携」という形で消費者は生産者を支え、生産者は安心安全な有機野菜などを届けることによって消費者を支える。創ることと消費することが、一方通行ではなく、相互補完的に作用しあう。いってみればお互い様の関係性だ。昨今、アメリカや欧州の一部ではCommunity Assisted Agricultureが盛んになってきているというが、これは日本の「提携」という行き方に近いものだ。

土壌や栽培する野菜には化学肥料や農薬は使わない。有機堆肥を中心にしてやると、土壌内の微生物相が豊かになる。有機農園の生物多様性の度合いは慣行農法に比べ20~30パーセント高いという研究結果もあるくらいだ。

②有機農業の調整サービス

慣行農業から有機農業へ転換した場合、毒性のつよい農薬のネガティブなインパクトから土壌を改善することとなる。土壌の無毒化はもっと評価されるべきだろう。

③有機農業の文化的サービス

都市の住人・消費者が、有機農園を訪れ、いっしょに堆肥をつくったり、栽培したり、収穫する。美味しい有機野菜料理に舌鼓を打ちながら、文化を共有する。

体験農園というオペレーションにすれば、さらに文化的サービスとして農をトランスレート(変換)することができる。昨今はやりつつあるエコツーリズムなど、農に文化的サービスを求めるニーズは大きい。

④有機農業の基盤サービス

ほっておいても植物は光合成を行い、酸素を環境に提供してくれる。炭素循環農法を採用する有機農家ならば、炭素を上手に循環させる。ただし、ほっておくが「耕作放棄地」になってしまうと、土壌はどんどん酸化して、ブタクサやススキだけの荒地になってしまう。

有機農業が基盤サービスとして持続可能なものとするためには、人の手足による手入れ、介入が継続的に必要だ。

⑤有機農業の保全サービス

硝酸隊窒素の排出量が少ない有機農家は硝酸隊窒素の循環や沼などへの蓄積を減らすことに貢献している。また、有機農園を保持することじたいが、①~④のサービスの持続に繋がる。

Payments for Ecosystem Servicesという考え方で有機農業のエコノミーをとらえてみるのも面白いだろう。有機農家にとって、提携家庭への野菜セット提供が最も利益率が高いというのは、この世界ではよく知られている事実。提携家庭が Ecosystem Servicesのコストを一緒に負担して支払っている(co-payment)と考えれば納得できる。

おまけ:

アメリカのポートランドで学会に参加したとき、ポートランド州立大学のキャンパスでポートランドファーマーズマーケットが盛大に開かれすごく多くの人が集まっているのを見てビックリ仰天したことがある。日本のオーガニックファーマーズマーケットも今後急発展するかも。。

 

 

オーガニック思考

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オーガニック思考というものはいくつかの思考のタバつまり、志向性から成り立つのではないか???その思考のタバは今日考えてみると5つくらいにまとめることができるかも。

その1:環境保全思考・・・皆(地域の人々、家族、自分)が安心して生活できるできるように、地球の限りある資源を考慮し、自然を尊び、環境に配慮すること。

その2:健康思考・・・健康な土(そのなかんの微生物もふくめて)に触れて、体を動かし、農作物や動物に接することで、肉体(身)的にも、言語的(口)的にも、意識(意)的にも健康を目指すこと。

その3:循環的エコロジー思考・・・土を中心とする環境→いきもの→食→人間という循環システムのなかでの自分の位置づけや役割を確認して実行すること。たんに農薬や化学肥料を使わないというのみならず、循環のなかでものごとを考え実行してみる。

その4:有機システミック思考・・・以上の1~3を全体システムとしてとらえる必要がある。微生物というミクロな世界もあれば、地球環境というかなりマクロな世界観も必要。かなりホーリスティックになる。さらに、TPPやJAといった制度的な側面、なぜ耕作放棄地が大量に発生して解消されていないのか?、なぜ欧州で厳しく規制されているネオニコチノイドが日本では緩いのか?というシステミックな問いも大事だ。現実の農「業」に関わる問題は、かなり悪構造に満ち満ちている。

その5:アクションラーニング思考・・・農というものは、理論、モデル、仮説などを具体的に現場でやってみてナンボのものだ。この現場でやってみることと、アタマで考えることが絶え間なく循環するという意味で、アクションラーニングそのものだ。頭デッカチの理論、モデル屋さんには手に負えず、足腰、手足を動かしてナンボのもの。アクションラーニングによってオーガニックなシステムづくりをしてゆくことになる。

たとえば以上の思考を駆使して最適なオーガニックマネジメント(有機農業経営)を構想すれば、野菜パックを「提携」先の家庭に直販するという方式が、5つの思考を具現化する経営の一つのスタイルとして目的合理的ということになる。提携とはいうものの、野菜を創る、消費するという2項対置的な位置づけではなく、いっしょに価値を創ってゆくという価値共創的な関係。

生産⇔消費という従来からあるフレームワークではなく、体験サービスという枠組みでリフレーミンングしてみるとまたまったく別のファーム・オペレーション・システムも浮上するが。

 

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File:Carbon cycle-cute diagram.svg

炭素循環農法(略して、たんじゅん農法、Carbon Cycle Farming)を実践している方がいるというので、佐倉の多菜園さんを訪問してみた。

興味津々。

無農薬の畑の土を菌や微生物でいっぱいにして、美味しく安全な野菜などを栽培するときに、一部のイノベーティブな就農者、つまりアーリーアダプターから注目されている農法だ。逆に言えば、大半の慣習農法を採用している農家からみれば、わけの分からない得体の知れない農法だろう。

具体的には木質チップ、おがくず、きのこの廃菌床などの炭素資材を畑に深く入れ込むことにより、土中の糸状菌(きのこ菌)が活性化してバランスのとれた微生物層を作る。そのパワーのお陰をいただいて肥料・農薬を使わないで野菜を栽培するというもの。

土中の微生物は、炭素資材を餌にしながら、土を団粒化していく。土が団粒化(こまなかお団子のようなもの)すると、通気性や通水性、保水性も改善される。また、逆に解体・分解作用を持つ微生物もいるので養分循環も創発する。そして、水源涵養などにもつながり、安全で美味しい野菜ができる。

多様な微生物による関係性のネットワークを畑の土のなかにつくっていくというものだ。60兆個の細胞から成る人間の腸には1000兆個もの菌が棲息してバランスをとっているが、たんじゅん農法を効果的に活用する畑の土壌のなかも似たような構造なのだろう。

畑の土壌は、野菜にとって腸の中の食糧のようなものかもしれない。

事実、「以前は大雨が降ると、雨水が表土の上を流れていったが、たんじゅん農法を採用してからは、すべて雨水は土壌の中にしみこんでゆく」そうだ。採れる野菜はぜんぶ生き生きとし、美味しくなったそうだ。

さて、土中での役割の終わった炭素は、大気中に炭酸ガスとして放散される。そして、草木の光合成により再び固定されてゆく。このように炭素は畑の土壌、植物、それらに関わるすべての多様な生物を介して様々な効果を生み出しながらグルグル循環してゆく。

ところが、慣行農法で肥料を使いすぎると、土壌は腐敗型に傾きやすい。その結果、虫がつきやすくなるし、その結果、農薬を使いがちになってしまう。すると、野菜は汚染され、肥料・農薬の味がする野菜となってしまう。

負のスパイラルにいったん入ってしまうと、なかなかそこから抜け出せない。正しいスパイラルにはいるためには、初めが肝心なのだ。