「データの見えざる手」は神の見えざる手?

2014-08-06 08.27.27_2

このところ、ウェラブルデバイスを活用した在宅ケアの案件があり、関連領域をブラウジングしていたら引っかかった一冊。ビッグデータの活用が情報学のみならず社会科学の新しい地平を切り開く?そんな可能性と予兆を充分に感じさせるオモシロイ本。

この本の著者である矢野氏(実に多才な人ですね、東工大にもコミットしている)はいみじくも、こういっている。「私のまわりでは、社会のさまざまなサービスの現場で収集されたデータを活用することで、社会を科学的に理解することが可能になり、一方で、この科学的な理解が、次の新たなサービスを可能にするという好循環が回りはじめているのだ」(p222)

加速度センサーなどのデバイスから得た膨大なデータから、人間や組織の行動を説明するパターンや法則が解明できるという。その実例がこれまた面白い。

もちろん加速度センサーに注目して、その種の「解明」に役立てたのは創意工夫の精華だろう。でも、人体から発せられるデータとして最も基本的かつ決定的なものはバイタルサインだろう。生命活動のバイタルさ、つまり、心臓拍動、血圧、呼吸、体温、排尿・排便、脳波などを24時間365日計測できるウェラブルデバイスとデータマネジメントシステムは、在宅医療や在宅看護、つまり在宅ケア全般にとって必須のツールになるだろう。

たとえば遠隔看護。

遠隔看護(telenursing)とは、遠距離通信の技術を利用した看護実践で、患者の日々の健康状態を把握したり、患者教育などを行う技術(川口孝泰)だ。

遠隔看護のひとつの大きなイノベーションは、ウェラブルデバイスかけることのビックデータの活用が震源地になるはずだ。ニーズが顕在化しているからだ。つまり、テレナーシングは①継続的ケアを担保し、②健康増進や予防の意識を増進させ、③健康相談を容易にし、④保健・医療・福祉チームの連携にとって必要な基礎データを提供するからだ。

ひとりひとりの人間がウェラブルデバイス(Internet of Thingsでもあり)を装着し、システムを経由してそこから多様なデータを吸い上げ、処理して、本人や保健・医療・福祉施設にフェードバックすることによってケアやキュアに役立てようという絵柄は、もうそこまできている。

そして、そこからパターンや法則のようなものを見つけてゆく作業になるだろう。

加速度センサーXバイタルサインX受診歴・・・・・・というように、ビックデータのカテゴリーを掛け合わせることによって、発症してからのキュアのみならず、発症そのものを予防する健康増進2.0の地平を切り開くことができるだろう。

ビックデータとそれを有効に織り込んだインフォーマティクスやサービス科学の領域は、このような分野から爆発的に発展しつつある。

さて、この本の面白いところは、大概の自然科学や社会科学研究者が、真正面からとらえることに躊躇しそうなテーマに取り組んでいることだ。

例えば人間の「運」だ。

・人と人が出会い、会話することは、運と出会う通路を開くものである。p138

・ソーシャルグラフで見ると到達度の大きい人(到達度が高く運のよい人)は、たくさんの人が周りを取り囲むことに成る。p145

・数値化することで言葉の呪縛から自由になる。p153

・運を掴むには会話の質も重要p160

・人との共感や行動の積極性は人の「幸せ」を決めるものである。p216

 

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