「生活を分断しない医療」

著者は愛媛大学医学部付属病院の櫃本真聿先生。こないだ同病院と1年がかりでコラボレーションしてやっているエンパワーメント・プロジェクト(システム思考Xデザイン思考Xマネジメント思考)でお邪魔したとき、田渕副院長(看護部長)さん達とランチをご一緒しながら時間が経つのも忘れて議論、議論、議論。

 さすが地元のラジオ局でケア・オブ・ライフという番組をお持ちなだけあって、ポイントを突くトークのそこかしこにユーモアや品のいいジョークが温かな対話をつくりあげる。
 
そして戴いたのがこの本。感謝です!
 
ケアシフト(これは、松下の造語ですが)がどんどん進んでいる日本にあって、まだまだ大学病院は、キュア中心の医療と価値観の一大中心地と見られている。

ところが愛媛大学病院はまったく異なる。これは全国の基幹的な病院を訪れて実際に医療現場のマネジメントに関わる悪構造問題をつぶさに診てきている自分だからハッキリ見える。

さてこのところ、保健・医療・福祉界では「連携」という標語に溢れている。なぜ連携なのか?

筆者は、急性期病院への入院が患者の生活を見事なまでにぶった切っているからだと断言する。地域における急性期医療の切り札である大学病院は「隔離」が基本だ。この隔離が行き過ぎているのだ。
 

・「要するに、医療が患者さんの生活をぶった切っていたから、再びつなげなければいけなくなっているのです」(p133)

 じつに、卓見ですね!この文章に接して、思わず膝を打つ。
 
・「この10年間で一番増えた仕事は、医療安全に関わる事務だそうです。一方で、一番減った時間ななんだと思いますか。実は患者とのコミュニケーションの時間です。・・・結局、こういうことが医療崩壊、あるいは、医療者の疲弊に繋がっているのです」(p80)
 
・「なぜ地域連携パスでつなげなければいけないのかというと、入院によって患者の生活がぶった切れていたからです」(p136)
 
・「エビデンス・ベースト・メディスン(根拠にもとづいた医療)が強調されるなかで、私たちは客観性ばかりを重視し、患者さんの主観や情緒などを考慮するということは医療者としてよくないことなのではないか、と思い込んできました。」(p144)
 

行き過ぎた隔離志向のキュア型医療からケア志向の方向に変化しつつあり、大学病院も決してその例外ではない。いや、大学病院だからこそ、オープンに地域と交流して、キュアとケアの入れ子構造を再デザインして、あたらしい繋ぎ役の役割をとっていかなれけばならい。

・「今後の医療のキーパーソンは看護師」(p148)
 
MCCEプロセスは、医療福祉連携の経験から抽出した面白い経験則だと思う。
ミッション(M)、つまり、目指すベクトルの方向を明確化しているか?コンセンサス(C)つまり、ミッションを理解して共有しているか?、コラボレーション(C)院内外の資源の協働ははかられているか?、エンパワーメント(E)つまり、住民・患者の内なる力の賦活化がなされているのか?
 
・「副作用である『医療への依存』、『医療(介護)崩壊』に介入すべき」(p192)
 
・「社会の発展や制度の整備などに伴って生じた”副作用”が何かと言われれば、「医療への依存」とそれに伴う「医療(介護)崩壊」だろうと思います」(p194)
 
・病棟中心の経営から外来によるマネジメントへのシフト(p220)
 
・おらがまちの病院を目指す・・・・”道の駅”ならぬ”健康の駅”的な病院にしてしまおう。(p228)
 
・「つなぐ医療」から途切れさせない連携へー合言葉は「医療を生活の資源に!」(p214)
 
愛大病院では、地域との共創性、コ・エンパワメントを重視した構想、プロジェクトの目白押しだ。ヘルスケアサービスの価値共創(value co-creation in health services)に首を突っ込んでいる自分としては、エキサイティングの一言。たとえば、がん総合相談センター、総合診療サポートセンター、専任の退院調整看護師が継続的に関与するシステム、住民のための院内図書館、災害ボランティア、ヘルスアカデミー、健康公民館構想など。
 
これらは、スゴイ!
 
わかりやすく問題点を整理整頓し、問題解決のための指針を明快に与える本だ。そして、具体的な愛大の事例が満載というのもすばらしい。医療マネジメントに関する本は、コ難しい本や読んで疲れる本が多いのだが。
 
でも、読んで元気になる一冊がこの本だ。読者がエンパワーされるいい本だと思う。
 

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