オオムラサキの飛来

オオムラサキ

八ヶ岳の南山麓に住んでいる知人の庭先には、夏になるとよくオオムラサキが飛来するそうだ。

空飛ぶ妖精が、八ヶ岳山麓の風に舞い、透き通るような青い軌跡を引いて、庭先に飛来するとは、日常のなかの奇跡ではないか。

しかも、オオムラサキといえば、押しも押されぬ国蝶だ。

知人が、庭先にとまった瞬間を写真にして妻に送ってくれた。めったなことでは静止しないので、めずらしいことだそうだ。

でも、当地では、オオムラサキが飛来したことを、頭数、時刻を含め、都度、行政の環境保護課に連絡しなければいけないという。絶滅が危惧されているオオムラサキを町をあげて守っているそうだ。しかしそれは、ある意味、面倒臭いことでもあるという。したがって、オオムラサキを庭先で見ても、「見なかったこと」にするそうだ。

さて、オオムラサキの学名はSasakia charondaという。なぜSasakiaなのだろう。調べてみると、学名のSasakiaは佐々木忠次郎という明治生まれの昆虫学者から命名されたからだという。佐々木忠次郎存命中には、絶滅危惧種には指定されていなかったろう。いや、絶滅危惧種という制度的カテゴリーさえもなかったのではないか。

もしかして、そこはかとなくオオムラサキは、地球環境の健康度を告げているのかもしれない。オオムラサキをケアすることは、地球環境のケアにも細い糸ながらも、連綿としてつながっていくのだろう。そんなことを考えながら、オオムラサキの神秘的なブルーを見つめていると、不思議な気持ちにもなる。

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