ソフトシステム方法論の思考と実践

木嶋恭一先生から寄贈本をいただいた。チェックランドの「Systems Thinking, Systems Practice」の翻訳が復刊本だ。35年前の1985年の翻訳メンバーによる堂々の復刊。いくつかの訳語が修正され、原著で増補された章=Systems Thinking, Systems Practice:includes a 30-Year Perspective の翻訳が追加されている。

世の中には、複雑に絡み合ってごちゃごちゃして捻じれた問題が多い。人間社会は進化ととにも複雑さの度合いを増しているので、複雑で交錯した厄介な問題は増え続けている。企業や大学の運営、経営はもとより、地球温暖化、気候変動や昨今のコロナ禍にどう対処するのか、といった問題まで幅広い。

黒か白か。ゼロか1か。正しいか間違っているのか。 やるか、やらないか。このように単純明快に割り切れる問題は少ない。まして医療機関、企業、あるいはクロスセクターな政策決定という、複雑な文脈が相互に交錯する「場」では、なおそうだ。

こういう時には、満場一致の単一の解、100パーセントの決定打というものを期待しなほうがよい。参加者が、異なった価値観や信条を持ちながらも、汗を流しながら、知恵を出し合い、不満度の度合いがより少ない、そしてこれならばなんとか飲めそうだ、というようなノリシロの内側に問題解決の糸口を探すこととなる。

このようなこじれた、ねじれた、ややこしい(wicked)問題解決や葛藤の落としどころを見つけることをコンセンサスだとか、アグリーメントとは言わない。行ってみれば、異なる立場や世界観、利害上の立ち位置、専門的な見解を、お互いが認め合いながら、幅やグラデーションのある問題解決の糸口を探すことをアコモデーション(accommodation)という。この アコモデーション 、敢えて日本語にすれば、「共立併存」とでもいえようか。

うんと端折っていえば、ソフトシステム方法論とは、 ややこしくて複雑な問題状況において固定化された目標を追求するというよりはむしろ、目標を探索しつつ、アコモデーションのための思考と実践の体系である。人の世が図らずも作ってしまう厄介でこじれた問題を上手に落とし込む方法だけに貴重だ。

この「共立併存」の方法は、多職種連携で成り立っているヘルスケアでは、必須だと思う。「共立併存」の方法論を持つ  Systems Thinkingは必須の思考方法だ。なので、近年書き綴っている本やプロジェクト管理のなかでは、この方法をよく使ってきている。病院という場は、さまざまな学問知や実践知がごちゃごちゃと交錯している。各種の医学、看護学、薬学、作業療法、理学療法、栄養学、社会福祉、公衆衛生、医療管理学・・・・。数えれば30や50になるだろう。問題は、これらの学問や実践分野は、それぞれ(これまた捻じれた優劣感覚や暗黙的な序列感覚をともなった)自己主張というものがあり、相互の連携や共立併存というセンスもあるようでない。

ソフトシステム方法論の7つのキモは:

①システム的に望ましく、文化的に実行可能なことをあれこれ探してみる。
②特定の価値観を優先させたり、1つに絞るのはご法度。
③立場の違いによる異なる価値観を認める、並立共存させてみる。
④異なるもの、対立する包含する上位の価値観を創る、探してみる。
⑤SSMはシステムやデータを分析するのではなく、関係者で分かち合い拵(こしらえ)るもの。
⑥未来に向かってゆく。
⑦絵(リッチピクチャ)を描きながら進めるわりとアナログ(右脳より
)思考を多用する。

分断されたタコツボのような学問、実践を突破するには、Systems Thinkingはエレガントで哲学的な道具だと思う。

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