ムーミンを生んだ国、フィンランド・ウオッチャーとしても今年は記念になる年だ。
Global Competitiveness Report 2012-2013によると、フィンランドのThe Global Competitiveness Indexは堂々の世界3位だ。日本は10位。フィンランド国内の市場は小さく世界54位、日本は4位。フィンランドはのHigher education and training は世界1位、日本は、21位。フィンランドのイノベーションの活発度は、世界2位、日本は5位である。
人口5.6百万人のコンパクトな国ながらも一人当たりGDPはUS$49,350。フィンランドが「産業のコメ」として重視しているものが、起業とイノベーションである。コモディティ化した鉄や半導体ではない。起業とイノベーションが、フィンランドの産業社会を駆動するエンジンだ。
OECDは政策策定や評価にあたって、起業とイノベーションを表裏一体のシステミックな社会的な現象ととらえていて、起業政策とイノベーション政策を隣接した位置づけで括っている。
300万人~1000万人の人口で、国内経済規模は小さく、人件費は高く総じて高コスト体質。でも高コスト体質をカバーする高い付加価値を生み出す高生産性のヒューマンリソースをしっかり育成している国が、現在の高付加価値先進国だ。そのような国は、ビジネス環境、住環境ともに良質で、世界のグローバル企業の幹部、研究者、起業家、留学生、専門職を吸引することができる。
そして、これらのリソースを活用して高い付加価値のモノコトを創りだして、世界に向けてブランド、ソリューション、人材を送り出すことができるのが、高付加価値国家の姿だ。
フィンランド以外にも、スイス、スウェーデン、デンマーク、シンガポール、ニュージーランドなどが入る。これらの国々は、脱工業化しており、ヒューマン・サービス先進国でもある。
ちなみに、目利きの大前研一氏も、これらの高付加価値先進国に注目しているようで、最近、「クオリティ国家という戦略」という本も出している。
大前さんの本には、詳しくは書かれていないことだが、このようなコンパクトな先進国が政策的に重視しているものが2つある。高付加価値国家の「産業のコメ」--それはコモディティ化した鉄や半導体といったモノではなく、起業とイノベーションだ。とくにノルディックの国々は、サービス先進国なので、必然的に、ヒューマン・サービス分野の起業、サービス分野のイノベーションに重点が置かれている。
起業政策(Entrepreneurship policy)とは、主に新しい起業家の出現および新しい企業のスタートアップや成長を促進するサポートシステムや環境作りに関することである(Lundstrom and Stevenson 2002, 2005)。かたや、イノベーション政策(Innovation policy)とは、新たな知識の創造、政府によるイノベーションへの効率的な投資、知識や技術の普及に向けたイノベーション・システムにおける各プレイヤー間の結合の改善、経済価値やビジネスとしての成功に向け知識を変換させていくための民間企業へのインセンティブの設定に関することである(OECD2002, p19 Commission of the European Communities)。
よく知られてるように、フィンランドはGDPに占めるR&D費用の割合も高く、また失業率も近年は下がっているようだ、ところが、1990年代より上記のような起業家政策を増加させているにもかかわらず、初期段階の起業活動は活性化していないようだ。
さらに、フィンランドの起業家は他の北欧諸国と比較して成長志向に乏しいとも言われている。起業の環境は整っているが、フィンランドは起業および高い成長志向の文化を促進することに成功していない、との批判もあるようだ。
いずれにせよ、国と国、地域と地域の社会制度、パフォーマンスを比較考量するデータは、20年前の比でない。マクロ的なデータによって俯瞰して、聞き取り調査、フィールド調査によって個別の事情に分け入っていけば、短期間に面白いリサーチができそうだ。
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