健康医療情報学の英語本

昨年、学術出版社のSpringer Natureから依頼されて書き進めてきた原稿が佳境にはいりつつある。2つのユニークな視点から描いて書いている。

ひとつめは、情報という視点。ヘルスケアのイノベーションを情報という視点から大胆に俯瞰して、その方向性、課題、問題を具体的な事例をおりまぜて描くというもの。人工知能、機械学習、ビッグデータ、各種デバイス、テクノロジーが織りなす新しい時代のhealth informatics(健康医療情報学)といったことろだ。

ふたつめは、システムという視点。昨今のコロナウイルス騒動も明らかなように、予防も防疫も治療も、政策や地域マネジメント、医療管理、病床管理を含めすべてシステム的な対処が求められる。また、ヘルスケアシステムそれ自体も位相転換(translation)の只中だ。

イノベーション研究者、言語的にバイな者のはしくれとして、ローカルな日本語で書いて、島国ニッポンにのみ生息する読者だけに読んでもらうよりは、世界に向けて英語で縦横無尽に書いて世界中の読者に読んでもらうほうがいい。グローバル時代の研究の必然だろう。

自分ひとりで書き下ろすのではなく、10人くらいのエッジの効いた研究者とチームを組んで、それぞれ1章づつ書くというプロジェクトだ。英語の本なので、それぞれの専門性ばかりではなく、きちんとしたアカデミックな英語が書けるとうことが大事だ。

友人のカナダやフランスの研究者にもこのプロジェクトに首を突っ込んンでもらっているので、国際色豊かな本になると思う。

イノベーターとは、既存のフレームワークに縛られることなく、さまざまな分野や専門知識をつなぐ人々だ。そこでは、「情報」が繋ぎ役となる。そして、価値の共創は、システムの境界、つまり専門分野、技術、プラクティスをめぐるトランスレーショナルなアクター(キワ者、あそび人、トリックスター、異界越境する知的変人)よってもたらされる。さまざまな能力、分野、テクノロジー、およびプラクティスの新しい組み合わせが、ヘルスケアの革新を引き起こす。

そして、さまざまな分野、技術、コンテキストの創造的な組み合わせと融合は、情報と知識のダイナミックな組み合わせ、循環から生まれる。確立されたフレームワーク、固定観念、アイデア、およびシステムの創造的な混乱(たとえばCOVID-19)は、イノベーションを促進する重要な鍵となる。 でも旧態依然とした政策やマネジメント手法がイノベーションの足かせになることも多々ある。なので、生態系全体を俯瞰して全体満足的にバランスをとって社会システムとして進化させる(というか自己組織的に進化させる)ことが大事だ。だいたいこんなことだ。

ヘルスケアの世界はいまや、イノベーションの坩堝の感がある。イノベーションの起爆剤になるものの奥底に横たわるものが「情報」だ。なので、情報をいかにイノベーションにtranslateするのか、ということが本質的に重要になる。

もっとも、translational researchとうアイディアはヘルスケアのR&D領域にはもともとあったものだ。bed-side( 臨床現場) とbench( 研究室 )を橋渡しするようなダイナミックな研究のことをいう。

ただし近年は、これらにpatient(患者)、practice(臨床実践)、 population(地域の人々)が加わって、translateする対象が格段に広がり、T1、T2、T3、T4などとも呼ばれる。

類書にはない、今回の本のオリジナルな視座というかフレームは、これらに、さらにpolicy(政策)とmanagement(マネジメント)を加えてイノベーションの実態を描写している点だ。これらすべての位相に、情報が還流されていて、それらをどう組み合わせ、イノベーションに活かしてゆくのか、という大テーマに挑むような本だ。

はやくケリをつけたいものだ。

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