招待講演600回オーバー

請われて通常より2年ほど余分に教授として勤務した大学を定年退職する。実に清々しい気分だ。4月からは都内のヘルスケアマネジメント大学院で特任教授として教鞭を執る。

さて、経営学、医療管理学、ヘルスケアシステム科学の中でも、組織行動、組織開発、人材開発、インフォマティクスは特に応用性の高い分野だ。応用的であるとは、経営の現場と密接に関わり、理論が実践に活かせなければ意味がないということを指す。

学者や研究者の仕事の中心は理論の構築にある。しかし、どれほど優れた理論やモデルを構築しても、経営や臨床の現場で活用されなければ価値を持たない。それでは空理空論に終わってしまう。論文や著書を読んだ臨床現場の実践者に評価され、実際に現場に招かれ、支援の機会を得て初めて、それは「本物の理論」に一歩近づくと言えるのではないだろうか。

その目安のひとつが招待講演だろう。論文や著書を読んだ方が「さらに詳しい話を聞きたい」「自分たちの臨床現場をより良くしたい」「課題を改善し、イノベーションを起こしたい」と思うからこそ、講演やワークショップの依頼につながる。幸い、これまで学会、職能団体、個別の医療機関、企業からの累計招待講演の回数は600回を超えた。1000回には達していないので決して多いとは言えないのだが。

国内は全県カバー。国外では、土地勘のあるアメリカが最も多く、アジアでは香港、中国、スリランカなど。もっとも遠いところは中央アフリアのコンゴ民主共和国で招待講演をしたことがある。上の写真はエジプトの医師向けにJICAで講演したときのもの。

とにもかくにも、人前でしゃべるのが好きな方なのだろう。バカ話、ヨタ話からアカデミックな話まで、話は続くどこまでも。受講者の方々、ワークショップの参加者、講演会の主催者の方々、実践者の方々との雑談、語らいが無性に楽しいのだ。これらの生成的対話(generative dialogue)が着火剤になり、プロジェクト、共同研究、新著の出版にもつながるものだ。

そうした方々とのポジティブな関係性は宝物といっても大袈裟ではない。フレデリクソンの「ポジティブ感情の拡張ー形成理論」をあてはめると、ポジティブ感情が増して、思考と行動のレパートリーが拡張して、次に繋がるリソースが形成されるからだ。このスパイラルに絡む人間関係がとにかく大切だ。だが、残念ながらスパイラル外の人間関係は、ある意味、どうでもいいということになる。

招待講演を重ねる中で、私自身が強く感じているのは、理論と実践の橋渡しの重要性だ。研究で得られた知見が、現場のリアルな課題解決に役立つと実感できる瞬間こそ、学問の価値が発揮される場面である。逆に、現場の声に耳を傾けることで、新たな研究の視点が生まれることも多い。理論を現場に適用するだけでなく、現場の経験を理論へとフィードバックする。すると新しい知が生まれ、アクション・リサーチにもなる。

この双方向の関係を深めることが、実践的な学問の発展には欠かせないのではなかろうかとでも言えばサマになるか?

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