新型コロナウイルス(COVID-19)リスクと同調圧力の先読み

新型コロナウイルス(COVID-19)の市中感染が、つぎのフェーズへ移行しつつある。因果関係を追って感染ルートを明確に把握できるフェーズではなく、不特定多数の持続的市中感染 (community acquired infection)、つまり感染源や感染ルートがコミュニティによって、得られてしまった・埋め込まれてしまったというフェーズだ。

毎日更新されているCoronavirus disease (COVID-2019) situation reports3月22日づけの最新レポートはこうなっている

身の回りでも、来月の3月開催予定で延期・中止された学会、医療系の学術集会、研究会は8件にのぼっている。だいたい外部に影響力のある研究者は複数の学会の理事を兼任することが多いので、「あの学会が延期・中止したので、うちの学会もそうすべき」という議論(集団的相互忖度)が頻繁になされる。筆者もとある学会の理事をやっているので、そういう現場の機微に触れることが多い。そういうインサイドの事情もあって、先週後半から いろいろな学会の延期・中止を告げるメールが増えた。共同研究先の病院からもたらさせる情報にも急を告げるようなものが増えている。

世界の医療管理学/システム科学コミュニティでは、日本に対するアラートのレベルが、近々に上がるだろう(当初は低めにだしておいて引き上げることによって注意喚起するだろう)と予測してきたが、予想どおり、このフェーズ移転に敏感に反応している米国CDC(疾病予防管理センター)は3月22日に日本に対する警戒レベルを上げてきた。

Alert – Level 2, Sustained Community Transmission—Special Precautions for High-Risk Travelersということだ。この声明には以下のような注意喚起が書かれている。ざっと訳すと:

①日本は、新規コロナウイルスによって引き起こされる呼吸器疾患(COVID-19)の持続的な地域感染(下線筆者)を経験している。
②ウイルスは人から人へと広がる可能性あり。
③高齢者および慢性病状のある人は、不必要な旅行を延期することを検討すべき。
④旅行者は、病気の人との接触を避け、石鹸と水で少なくとも20秒間洗浄するか、60%〜95%のアルコールを含むアルコールベースの手指消毒剤を使用して頻繁に手を洗う必要あり。

この発表を受けて、米国国務省も警戒レベルを上げた。それが日本に伝わるとこのようにしか報道されない(ヤフーによる報道事例

さて、注意すべきは、日本は「持続的な地域感染を経験している」という表現。収束する兆しは見られず、「持続的」に「地域感染」が着々と進行している、ということだ。

「地域」というのは、エリアや地区といった地理的な単位のみならず、社会系、経済系を含む社会システムということ。つまり、 新規コロナウイルスがもたらしている呼吸器疾患(COVID-19) は、社会経済システムにも着々と悪影響を及ぼし、それが短期的に収まる可能性は小さいということだ。

新型コロナウイルス(COVID-19)感染は、一義的には疫学的現象だが、これが社会的現象へとフェーズ転移してしまったのが、2月22日だ。

日本は同調圧力の隠微ながらも強力な作用が働きやすい国なので、ことさら、「レベル2」の影響は大きくなるだろう。みなが周囲を見渡して、同調するように、皆と同じように考え、相互に意図しない圧力をかけあって行動するという傾向だ。上にのべたように学術の府としての学会とて、そうだ。集団的相互忖度といってもよいだろう。

楽観論、悲観論さまざまあるが、まずは、プラグマティックに最良・楽観と最悪・悲観シナリオを線引きして、リスクを先読みすることが必要だ。近未来は、それらの中間地点のどこかに着地することとなる。

①最良・楽観論

ピークは近々に訪れ、収束していく。確認された感染者数はたしかに増えている。しかし疫学的に言えば、地域感染の深刻さを判断する際には、発症者のリアルな人数よりも、クラスターつまり一人の発症者から感染が拡がった感染者ネットワーク集団の数が重要だ。既存のクラスター内の感染者数が急増しても、クラスターの総数が増えなければ、地域感染の拡大は重篤とは判断されない。スラスター総数をコントロールすることにある程度成功して、クラスター内の感染・発症はいずれ止まる。 2月下旬から3月上旬にまでは、クラスターの増大は抑え込まれる。

②最悪・悲観論

持続的な地域感染は当面着実に拡がり、ピークは半年、一年以上先になる。個別地域の感染症例が、マスコミにも大々的に取り上げられ、それに反応する市中の同調圧力・集団的忖度傾向が強まる。CDCの警戒レベルは「レベル3」に引き上げられ、「危機感」、「不安感」が同調圧力を受けて増幅してゆく。日本政府の対応のまずさ(初動体制の遅れ、中国に対する遠慮、媚中姿勢、ダイヤモンドプリンセス、政府関係者の感染など)を指弾する国際世論も強まり、東京オリンピック・パラリンピックも中止・延期される。

リスクマネジメント、危機管理の要諦は、情緒的に最良・楽観論に流されることなく、さまざまな推論を織り込みつつも、常に最悪・悲観論のボトムラインを冷徹に意識して、現実の行動に織り込むことだ。その意味で今は、②を意識しておくことが重要だろう。近々、日本感染症学会が、どのような声明を出すのかも要注意だ。

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