20冊以上の著書を出してきているのだが、度重なる書斎や書庫の移動のためか、第1作目のデビュー作がどこかに紛れ込んでしまった。否、紛失したのかもしれない。そこで、数カ月前に、徒然に中古本のサイトを物色していたらこの一冊を発見したので早速購入した。これで、いままで書き連ねてきた自著がすべて本棚にそろうこととなった。めでたし、めでたし。
コーネル大学院在学中にインタビューをうけた日経BP社の記者氏から紹介されて書いた1冊だ。大学院修了後、ぼくはHay Consulting Groupというアメリカのコンサルティング・ファームでコンサルタントをやっていた。研究機能を有するコンサルタンシーなので、米国のヘルスケア部門の同僚とチームを組んで、日本とアメリカの病院に質問票を送付して回答結果を多変量解析にかけMajor Findingsをまとめた。(1)政策提案、(2)看護部門の現場への提言、(3)看護師のワークスタイル変化の提言、などを行った。
社会科学者(のはしり)としてデビューとなった本なので思い出深い1冊だ。当時は、経営学や政策分析学を含む社会科学の対象として「看護」を分析することは、日本ではほぼほぼ誰もやっておらず前人未踏のブルーオーシャン状態。なので、そこそこインパクトはあったのではなかろうか。この本を読んでいただいたNHKのディレクター氏から連絡が入り、第1回看護サミットで講演とパネルもやった。その講演とパネルがNHK教育番組で放映もされた。
ナースキャップが時代を感じる。現在では、衛生管理上無意味、あるいは弊害ありとしてナースキャップをつける習慣は消失しているが、1991年当時は、ナースキャップは「看護婦」のシンボルのような存在だったのである。1991年当時は、「看護師」ではなく「看護婦」でもあった。30年前の本なので、内容もさることながら、表紙の雰囲気に時代を感ぜざるを得ない。
これほどさように、一度刊行された書物に紡がれ刻された知識は、どれほど時間が経とうとも活字として固定されるので変わるものではない。今日のように、世界が社会がまたたくまに変化しようとも、一度世に出た書物と書物に蔵された情報、知識は変化せず、そのままの活字であり続ける。ゆえに、それらを読むことは、時空を緩く超えて時の変化をそこはかとなく肌ざで感じる所作なのかもしれない。
ともあれ、この一冊を書いたその30年後に大学の看護学部で教授として教鞭を執ることになろうとは当時は寸毫も意図、予想さえしていなったという一事をもって、時空を超える予想や意図を遥かに超える変化を肉感するには、十分だろう。30年まえに書いた1冊は、時を越えて、そんなことを語り掛けている。
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