拙著を出版しました。
今回の企画は、大島敏子先生とコラボして、2018年度の診療報酬・介護報酬同時改定を受け、看護の現場に直結する内容を選りすぐって改定裏話も含めて解説するというもの。
ただし、類書と最も異なるのは、看護政策・経営学という松下独自の体系をベースにして、診療報酬・介護報酬のツボをつかみ、うまく活用するノウハウを紹介しているところです。
一般病棟入院基本料の評価体系の見直し、入退院支援など地域連携をはじめとした加算の内容から今後の方向性まで、看護管理者が押さえておきたいポイントを解説しています。
医療管理学、政策分析学の立場から松下が編集と執筆を行いました。さて、ここでは一般病棟入院基本料の評価体系についてのみ書きます。
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そもそも7対1が創設された2006年に、多くの病院が高い報酬を求めて 7対1を取得しようとして看護師採用争奪戦が巻き起こりました。
厚労省は、当初は7対1の届出病床数2万床を政策的な目標としました。この読みが大きく外れ、ピーク時には約38万床まで激増してしまいました。
政策的な誤算を通り越えて、これは事実上の大失政と言わなければなりません。
しかし、厚労省はこの失政を認めませんでした。「官僚の無謬性」という疾患です。
あげくのはてには、7対1が過剰になったところで、厚生労働省は7対1の施設基準を厳しくすることよって、7対1 から10対1に逆誘導しなおしました。
さらなる失策の上塗りです。
このように 7対1 と10対1を巡る入院基本料の改定の歴史は、創設時の誤算と失政の上塗りともいうべき状況です。巷かまびすしい根拠に基づいた政策策定(Evidence-based Policy Making)とは隔絶しています。
このようにして、社会的共通資本(宇沢弘文)である医療・看護サービスが、社会的共通資本を擁護、増進するべき厚労省によって、こともあろうに毀損されてきたのです。
そして、改定のたびに、医療経営関係者の吐息、被害者意識、怨嗟、冷笑がないまぜとなり、不信感を醸成してきました。
今次改定もこのような歴史的文脈から分析する必要があります。
2018年の前回改定は、7対1と10対1の最高部分が、それぞれ1591点と1387点であり、その差は204点という大きな報酬差がありました。また医療機関としても管理単位が異なると状況に合わせて弾力的な配置をしたくてもできませんでした。そのため 7対1から10対1への届け出変更が非常に難しかったのです。これは制度設計に問題があったのです。
ところが、今次改定では積年の失政の上塗りを一気に「御和算」して、大胆に制度設計をやり直してきました。
つまり、患者の集客が滞り、稼働率が低下し、重症度と医療・看護必要度が低下すると7段階の階段を右上から左下に向かって落ちることになりうるのです。
筆者がペイ・フォー・パフォーマンス7段階逆スライド方式と命名する所以です。
7対1の人員基準をクリアして1591点を確保していたにも拘わらず、稼働率が下がり、重症度と医療・看護必要度も下降すると、急性期一般入院基本料の2階部分が、入院料1(1591点)→入院料2(1561点)→入院料3(1491点)→入院料4(1387点)→入院料5(1377点)→入院料6(1357点)→入院料7(1332点)というように落ちてゆくという仕組みです。
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