一冊の本を頂いた。看護管理の実体験を踏まえて著者自身の言葉で語りかけてくるような本だ。
著者の加納佳代子先生とは知り合って20年くらい経つだろうか。臨床現場での看護管理の経験が長く、その経験から紡ぎ、漉し出した「法則」、「パターン」、「成功要因」のようなものをナラティブとして語り、文章として書き記す達人だ。
ケアの基本は、①お互いに持てる力を引き出しあったか、②お互いに自分のことを自分で決める機会を大切にし合ったか、③お互いに支えあったのか。(p22)
「心を通わせる27の方法」と私のつぶやき(p148~151)も実に面白い。「おもてなしは挨拶から始まる」、「あらゆる行為が発する活力は、発した人に戻り同種の活力をもたらす」、「個人への共感は、感情銀行からの投資」、「努力と注意の連続が成果を生む。手を抜くと後でしっぺ返しが来る」などは、現場の知恵というか金言だろう。
さて、知識生成のモード論(Gibbons et al. 1994)を下敷きにして読めば、この本はモード2の本だ。モード1は、学問分野それぞれの内的な論理によって、研究者コミュニティーを相手とする知識(エピステーメ、学問的知)だ。モード2とは、相手は研究者ではなく、現場で働く実務家やプラクティショナー。参照する知識は、細切れ、タテ割の専門分野で個別に生まれてきたものではなく、無境界で既存の区分を超越するようなものだ。だから必然的にトランスディシプリナリーなものとなる。現場という文脈や場のニーズに合わせた形で生成する知識(フロネシス、賢慮)だ。
モード1から見ればモード2は、現場のノウハウ、モード2から見ればモード1は空理空論・・・。そんな排他的な否定や卑下ほど非生産的なものはない。なぜなら、モード1と2は、ダブルループのように相互に共鳴して新しい軌道を創ってゆくのだから。
さて、看護学と経営学には大きな共通点がある。それは、「実学」の矜持がボトムラインに息づいているということだ。看護学にせよ、経営学にせよ、それらの学問の果実は現場においてこそもたらされるのである。看護は臨床という現場で、経営学は経営という現場で。だからこれらの分野の研究者にとって、現場との交流のみならず、現場経験が本質的に重要なのだ。それがモード2やアウトリーチの原動力となるのだ。
モード1の知識は典型的には査読付論文でオーソライズされ研究者コミュニティのなかで流通することとなる。それに対してモード2は、プロジェクト、コンサルティング、受託研究、一般向け書物や講演、トークなど非常に幅広く、またそのためのメディアも多様化しつつある。もっとも著者は「講談」という他に類なき方法でもモード2を実践しているという点でもユニークだ。
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