
中一日おいて層雲峡の層雲峡ホステルに移動。以前はユースホステルだったが廃業の憂き目にあい、現在は立派にリノベーションを経て再生している。ここは自転車ツーリングの道すがらなくてはならないこのエリアでの常宿にようなものだ。国道を挟んで向こう側の層雲峡野営場にも2回テント泊したことがあるが、2019年以降この野営場は閉鎖されている。
ホステルで知り合った元気のいい74歳の登山者の方(なかなかのインテリかつ強壮の方で、百名山のうち80座以上を達成中で、若い頃はミシガン州立大学でLLMまで取得されていると仰っていた)といろいろ尽きぬ雑談になり、ワインまでごちそうになってしまった。翌朝、今回の旅の友4駆を走らせ、銀泉台まで林道を走らせる。銀泉台から赤岳、小泉岳を経て白雲岳避難小屋へと向かう、大雪山のエッセンスが凝縮された素晴らしい山行である。今回は、その道中で出会った「氷河期の生き残り」の姿、リニューアルされた白雲岳避難小屋での興味深い気づき、そして翌日に迎えた完璧な晴天のもとでの息をのむ絶景をメモしておこう。
🏔️ 銀泉台から赤岳へ。4つの雪渓を越える朝8時30分、銀泉台から登山を開始。
赤岳への登りルートには、下から順に第一雪渓、第二雪渓、第一花園、第二花園、第三雪渓、第四雪渓という4つの有名な雪渓(残雪帯)が現れる。初夏の斜面トラバースから、山頂直下の息が切れる急登まで、変化に富んだ雪の斜面を渉りながら一歩一歩高度を上げていく。心地よい緊張感を味わいながら、約3時間で標高2,078mの赤岳山頂へ到着した。そこから小泉岳を経由し、午後3時前にはこの日の目的地である白雲岳避難小屋へ、スケジュール通り余裕を持って到着することができた。
もっとも10年くらいまえは、キャンピング装備の自転車を層雲峡にデポして、バスで銀泉台まで移動して、軽量ザックに行動食と水、雨具を詰め込み、一日で赤岳、小泉岳、旭岳往復、中岳、黒岳、そしてロープウェイで層雲峡へ帰ってくるというハードな山岳トレールランのようなこともやっていたが、下降曲線を描く体力を受け入れ、今回はさすがに大人しく避難小屋泊まりとした。

🐹 登山道から20メートル、静かな遭遇今回の山行で最大のハイライトは、白雲岳から赤岳へと向かう途中の広大なガレ場(岩場)での出来事であった。登山ルートから20メートルほど離れた岩陰に、ふと目をやると……そこにいたのはエゾナキウサギである。「大雪山系の固有種」と思われがちだが、実は北海道全体の固有亜種だ。日高山脈や十勝岳連峰などにも生息しているが、ここ白雲岳周辺は日本屈指の超一等地(大生息地)として知られる。
わずか20秒足らずの短い時間だったためカメラを構える余裕はなかったが、彼らにとっての安全な距離(パーソナルスペース)が保たれていたからこそ、逃げずに姿を見せてくれたのだろう。夏の暑さに極端に弱い彼らは、ガレ場の地下にある永久凍土や風穴の冷気をシェルターにして生きている。冬眠をしない彼らが、これからの冬に向けて熱心に「貯食(草を岩陰に干す)」をする姿を想像すると、愛おしさが込み上げてくる。
今宵の宿である「白雲岳避難小屋」は、1954年に初代の石室が作られて以来、過酷な高山帯の気象から登山者の命を守り続けてきた歴史ある拠点である。直近の2020年(令和2年)に全面建て替え(リノベーション)が行われ、環境省の最新工法(CLT工法)を用いた、頑丈で非常に美しい快適な小屋へと生まれ変わっている。

ただし、この美しい小屋の裏手(白雲岳グラウンドなど)は、高山植物が豊富なため「ヒグマの超高確率出没エリア」としても有名だ。近年はテントサイトのすぐ横に親子グマが現れることも多く、利用時には厳重な警戒と最新情報のチェックが欠かせない。その夜は、10名ほどの登山者と一緒に小屋の綺麗な板の間で雑魚寝となった。
ここで、個人的にとても面白いカルチャーショックを受けることになる。私の装備は、単三電池を使う昔ながらのヘッドランプと、コンパクトな半身のエアマット。しかし、周囲の現代登山者たちの装備を観察してみると、驚くべき進化を遂げていた。① 周囲を刺激しない「赤色LED」夜間、他の登山者が使っていたのは、他人の迷惑にならない「赤い光」のヘッドランプであった。
現在の主要ブランド(Black DiamondやPETZLなど)のライトは、暗順応した人間の目を刺激しないよう、最初から「赤色モード」で点灯するマナー機能が標準装備されている。現代の登山マナーの質の高さが窺える光景だ。② 進化を遂げた「全身用エアマット」「荷物を軽くするためにマットは半身サイズ、足元はザックを敷く」というのがかつてのベテランの常識であった。しかし今の主流は「全身用」である。
技術の進歩によって、全身をカバーするサイズでも、畳めばペットボトルサイズ、重さも300g前後と超軽量。大雪山の冷える夜でも、頭から足先まで完全に地面の冷気を遮断して「翌日のためにしっかり安眠する」という快適性重視のスタイルが定着していた。こうして他人の道具を観察できるのも、避難小屋泊ならではの醍醐味だ。
身支度を整え、まずは昨日歩いてきたルートをなぞるように白雲岳分岐まで引き返す。空気はどこまでも澄み渡り、遮るもののない大雪山の稜線が美しく光っている。そこからいよいよ標高2,230mの白雲岳山頂を目指す。たどり着いた山頂からの風景には、驚くべきことに人っ子一人いなかった。静寂が支配する遮るものなき空間。そこには大雪山系のスケールを象徴する完璧な絶景が広がっていた。そして、その眼下に広がっていたのが、この時期の白雲岳の代名詞とも言えるゼブラ(縞模様)である。
対岸にどっしりと構える主峰・旭岳や裏旭の斜面、そして広大な谷を埋めるハイマツの深い緑の中に、幾筋もの残雪の白が幾何学的なコントラストを描き出している。この「緑と白のゼブラ模様」は、初夏の大雪山でしか見ることのできない自然の芸術だ。写真では到底伝わりきらない圧倒的な立体感と空気の広がりを、独り占めというこの上ない贅沢な時間の中で心ゆくまで堪能した。

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