「本」と”book”は同じか、いや違う

“Health Informatics: Translating Information into Innovation”という書物の出版までなんとか漕ぎつけた。日本、カナダ、フランスなどの26名の研究者、実践者の協力を得て、SpringerNature(科学雑誌Natureの出版元でもある)からの出版だ。システム科学のレンズから、ビッグデータ、超感度センサー、人工知能によってもたらされる情報革命が、医療情報、そしてヘルスケアのありかたを劇的に変化させている状況をあぶり出してみた。

この研究に首を突っ込んではや10年もたつのだが、国際学術コミュニティに向かってやっと情報発信できて、ホッとしているというか、肩の荷が降りた感じだ。

ところで、この書物、日本語は一文字もない英語の本なので「本」ではなく、本来は”book”というべきだろう

さて、bookに定冠詞のtheがついて”The Book”と書くと、これは聖書Bibleのこととなる。破裂音の“b”から始まるこれらの言葉の語源は同一だ。神聖な本、それが聖書だ。だから英語の感覚からいうと、bookを書くことは、paperを書くことよりも、重く聖なる響きがそこはかとなく漂う。

日本語の「本」、「書籍」、「書物」には、意味における重要な差異はないように思える。ところが、「書籍」は文章・絵画などを筆写または印刷した紙の束をしっかり綴 (と) じ合わせ、表紙をつけて保存しやすいように作ったもの。巻き物に仕立てることもある。多く、雑誌と区別していう(出典:大辞泉)。

「本」はどうか? 

「木」という字に、「根元を示す線」を縦の棒に横に書き足したものが「本」の字の成り立ちだ。木の根っこ、つまり「もと」という意味を持っているので、「本」を「もと」とも読む。転じて、「手本」や「基本」といった「模範」とすべきものという意味に使われたり、「本質」のように根本的な性質、性格を表す用語としても使われる。

つまり本とは、その含意として、「模範」、「基本」、「本質」といった、なんというか背筋がピンと伸びるような形而上的な緊張感を伴う語感が随伴するのである。

これほどさように「本」と”book”は異なる。その含意において。

ところが、bookも本も、有難い(存在すること自体が難しい)貴重なもの、本質、模範なる思想、アイディア、考えを綴じ込んだものという点では同じなのかもしれない。果たして、今回の書物が、「本」や”book”の名にふさわしいのかどうか、こればかりは筆者が決めるわけにはゆかぬ。読者にまかせるべきだろう。

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