中禅寺湖の風

<中禅寺湖の菖蒲ケ浜キャンプ場>

6月あたりから次作の原稿執筆にとりかかり、オリパラを挟みながらも、暑い夏をしのいで、総文字数が16万字を越えた。やっと終盤に到達し、なんとかめどが立った。あとは索引などのファインチューニングをして、出版社の編集者へ渡すだけだ。

ひたすら執筆の日々の疲れのためか、無性に森の香りに色づいた晩夏の風を感じたくなり、クルマにキャンプ道具一式を積んで、日光へ。東照大権現を参拝してから、イロハ坂経て中禅寺湖湖畔の菖蒲が浜キャンプ場へ。

このあたりは、大学2年の時に、自転車仲間と走り抜けた思い出の地だ。山王林道をやっつけ湯西川へ降り、さらに安が森林道を越えて、奥只見へ、さらに六十里越峠を越えて小出、そして鯨波海岸へ。そして、金沢を経て、九州を鉢の字を描くように走り、四国へ。そして、西日本を走り抜け、天竜川を遡行して信州から埼玉へ。

当時は、ひたすら悪路、難路の峠道を走ることばかりに熱中していて、心に余裕をもってキャンプを楽しむという心象が希薄だった。キャンプとは食べて、寝る野宿であり、それは、すなわち、貧乏自転車ツーリングの夜のサバイバルを意味した。それらは、もしかして「若さ」と同義だったのかもしれない。

さはさりながら、自転車に比べれみると、クルマは奇跡的な乗り物だ。怠惰への礼賛かもしれないが、足元のアクセルにそっと触れるだけで前に進み、広大なラッゲージ・スペースには、テント、寝袋、マット、椅子、焚火台、大量の薪、食料・・・、ありとあらゆるアウトドア資材を搭載して、たいした疲労感もなく目的地に到達できる。

中禅寺湖は、2万年前に男体山の噴火でできた火山性の堰止め湖。湖面の標高は1269mもあり、湖の湖面標高としては日本一。

その湖面にほど近い砂地に、たったひとりでテントを設営して、焚き火をくべて、チェアに居座ってビールとウイスキー。湖面を通り抜ける透き通った風は、木々の香りを乗せて男体山の山容を駆けあがったかと思うと、日没後は、おもむろに男体山の稜線を覆う原生林から楚々として吹き下り、この季節ならではの鼻腔の奥に心地よい香しい木々の香りを届けてくれる。

中禅寺湖の風は気まぐれだが、小さなキャンプサイトに宝ものを運んでくれる地球の息吹なのかもしれない

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