調べる技術・書く技術

調べて書くことを生業のひとつにして、かれこれ30年くらいか。

ベテラン設計士は設計の入門書をあまり読まないだろう。書物に通暁した読書人も、読書に関する入門書を手にすることは少ないだろう。でも、モノカキの端くれとしては、秀でた同業者による知的生産に関する方法論は気になるところだ。

書斎本や知的生産の技術系はけっしておろそかにはできないジャンルだ。このジャンルではけっしてベテランではないので、謙虚に読んでコヤシにしなければ。

この本の志はとても高い。それは、ノンフクションのテーマ設定、資料収集、インタビューのアポとりと準備、インタビュー(聞き取り、観察、記録)、ネットワーク作り、資料整理、そして執筆の準備から脱稿までの方法について標準化できる部分はできるだけ標準化しておこう、というものだ。

とかくノンフィクションを書くという知的な創造的な作業は見えずらい。また、見せづらいものだ。だからとかく、不断の努力、コツコツとした地道な準備、あの作家ならではの鋭い感性、あのライターならではの特殊な創造性というようなベールのあちら側の世界のものとして片付けられやすい。

このような安直なあちら側の世界観に対するアンチテーゼがこの本には通底している。また、資料収集をデータ生成と読み替えれば、社会科学系の学術論文の執筆にも十分使える内容だ。

学術論文をノンフクションの一部と見立てれば、そしてノンフクションを書くという作業をプロジェクトと見なせば、以下のようなポイント、要諦はとても役に立つ。

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長編ノンフクションには俯瞰図チャートが必要。p131
 
書き出しに全神経を注ぐ。 p132
 
短編ノンフィクションでは「ワンテーマ」とはべつに、ポイントを3つほど構想段階で考えておく。3つより多すぎてもすくなすぎてもいけない。p169
 
ノンフィクションのカテゴリーは3つ。人物、事件、テーマ。何かの主題をめぐり、事実に基づいて書かれた文章—、それがテーマ・ノンフクションにほかならない。p224
 
テーマを見つけるうえで、私が一番役に立つと思うのは一人旅である。日常とは違う風景や人々の中に身を置いてみると、自分の輪郭がくっきりとしてくるものだ。一箇所に留まらず、移動しつづける旅には、自分のなかに埋め込まれていて普段は気づかない、時間の感覚を呼び覚ます働きがある。p239
 
空間を横軸とし、時間を縦軸とすると、横にも縦にも大きく広がった位置取りから、逆に現在の自分の姿が見えてくる。そうなれば、やがてテーマも見えてくるにちがいない。p240
 
人に会い、話を聞き、文章にする。たくさん読み、たくさん観、たくさん聴く。こんなことを繰り返すうち、知らず知らずに自分が豊かになっている。多少なりとも、ましな人間になっている。傍目にはどう映ろうとも、自分自身にはそうした実感がある。p214

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