重厚感溢れる「ケアの社会学」

やっと読み終えた重量感溢れる一冊。497ページで1ページ2段構えのテキスト構成という大部な本だ。社会学という切り口からケアを見つめ、よいケアとはなにかを徹底的に論述している。

さまざまな先進事例、成功事例、失敗事例が丹念な記述で紹介されている。これら事例に対する参与、足で稼いだ参与的な観察がとてもためになる。

生協福祉、ワーカーズ・コレクティブ、「このゆびとーまれ」、「ケアタウンたかのす」などについての分厚い記述は、なるほど、とても有用だ。

ただし、論理構成の面で、ちょっと気になったところをメモっておく。

「官/民/協/私の4セクターのうち、ケアのプロバイダーが民セクターに属すること、すなわち、市場に依存するオプションはさけたほうがよいとかねてからよいと考えてきた」(p236)とあるように、筆者は過度な民セクター、つまり市場のなかでCSRに担保されるにせよ利潤追求動機でケアサービスがなされることには反対の立場をとっている。

後ろの方では、「福祉多元社会を構成する4つの領域、官/民/協/私は、それぞれポランニの再配分、交換、互報性、贈与に対応する経済領域と考えることもできる」(p456)とも書いている。

協セクターに思い入れのある筆者の上野さんの立場からすれば、この立場自体はもっともなものだと思う。

ところがだ。「ケアとは、ニーズとサービスの交換である」p134と筆者は言うのだが、貨幣を媒介にしてニーズとサービスが「交換」される場は「市場」なのだから、市場を主たる活動の場とする民セクターをどうしても強く含意していまう。

だから、ここは、市場に依存するオプションを避けるという論点から言えば、「交換」であってはならないはずだ。概念構成と論理構成に工夫がいる。たとえば、こんなふうに論述してみたらどうだろう。つまり、

ケアとは与えて手のコンピテンシーと受け手のニーズが共鳴してサービスとして価値共創(value co-creation)されるものである。さらに言えば、ケアサービスシステムとは、与え手と受け手が共に創るサービスを持続的に生存可能なものことにするためのシステムである。

この本の後半の圧巻は、「福祉多元社会」を構想しているところだと思う。官/民/協/私は、対立でも、対抗でも、共存でも、まして、相互補完でもないはずだ。それぞれのセクターが、境界を融通無碍に越境して浸潤し、相互に「価値共創」して、はじめて「福祉多元社会」化にむけてのサービスイノベーションは実現されるはずだ。

こうすれば、スッキリして分かりやすい。

 

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