
科研費で国際共同研究をやっているときのことだ。共同研究者のウェスタン大学のキャロル・オーチャードとZoomで雑談しながら、これらからのコラボレーションは、人間と人間とのコラボレーションもさることながら、人間と人工知能によって駆動される機械とのコラボレーションになるだろうから、そんなことを含めていっしょに本でもかかないか、という話になった。
以前SpringerNature社とご縁をいただき、一冊英語の専門書を出していて、今回もSpringerNatureから出版することになった。世界的な学術出版社なので、オーチャード女史からも一発返事でやろう!ということに。このシリーズはTranslational Systems Sciecesと銘打ってあるように恩師の東京工業大学名誉教授の木嶋恭一先生らが総合監修しているシステム科学のガチなシリーズで、世界的に著名なこの分野の学者が執筆している。この列に加えさせていだいたのは、光栄至極なことである。
たわいもない雑談が、会話になり、対話になり、そこから突拍子もなく奇妙奇天烈なアイディアが生まれる。そのアイディアがネットワークを通して文脈となり、その文脈に共感するリサーチャーが寄り集まり、編集され、具体的なアウトプットとなる。これが生成的対話(generative conversation)の妙か。雑談、会話、対話もローカルなウチに閉じた日本語ではなく、ソトに開いた英語でサクサク進めるので話が早い。
カナダ、アメリカ、イギリス、オーストラリア、アフリカ、日本等のその道の第一級の研究者に声をかけて、足掛け3年間の長丁場であった。途中コロナ禍やいろいろなことがあったが、総計40人もの学者が首を突っ込み、14本の学術論文を糾合した充実の一冊となった。関係者の皆様、ありがとうございました \(^ω^ )♪
SpringerNatureのサイトはこちら。以下、本書の案内の日本語版。
本書は、医療におけるコラボレーションを「トランスレーショナル・システム科学(Translational Systems Sciences)」の視点からアプローチする初めての試みである。医療におけるコラボレーションは、多様な分野、産業、大学、専門職、チーム、患者、さらには人工知能やビッグデータを活用した機械・ロボットとの間で、複雑に絡み合っている。革新的なコラボレーションは、現実世界だけでなく、インターネット上の仮想空間においても進化を遂げている。
医療の現場では、患者中心のアプローチを尊重しつつ、病院、地域社会、新技術の開発、産学病官の連携、専門職間の協働など、さまざまな場面や文脈においてコラボレーションが求められている。しかし、「医療専門職におけるコラボレーション」が科学的に研究・議論されるようになったのは、ごく最近のことである。
本書の目的は、現代医療における「革新的コラボレーション」を、主にトランスレーショナル・システム・サイエンスの視点から再検討し、再構築することである。そのために、著者らは三つの独自の視点を提示する。
第一に、専門職間のコラボレーション(Interprofessional Collaboration) である。コラボレーションの優雅さ、堅牢さ、そして回復力(レジリエンス)は、専門職間および多分野間の協力に大きく依存している。
第二に、患者中心性(Patient-Centeredness) の視点である。近年、「患者中心の医療」という考え方は広く認知されるようになったが、倫理的側面を含め、それがコラボレーションの中でどの程度実現されているのかは依然として課題である。本書では、先進的な取り組みを紹介する。
第三に、人と機械の協働(Man-Machine Collaboration) である。人工知能やビッグデータと連携したロボットやセンサーシステムとの協働は、医療のあらゆる場面で一般化しつつある。本書では、先端事例を紹介するとともに、その裏に潜む倫理的問題や対立についても批判的に分析していきたい。
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