日本の労働人口がやせ細るように減少する中で、成長する会社や病院が優秀な人材を採用することがますます難しくなりつつある。少子高齢化に伴う労働人口の減少は、病院を含む企業にとって人材確保の大きな課題をもたらさざるをえない。
特に、専門スキルや高度な知識を持つ優秀な人材の供給が限られるため、労働市場での人材獲得競争が厳しくなる。だから採用して育成するのは「人材」ではなく、「人財」だということになる。
秀でた人財はより多くの選択肢を持つようになる。たとえば、特定の高度専門職のスキルをもち、データサイエンス・リテラシーと起業家精神を示すトラックレコードを持つような人財は引く手あまたである。その結果、給与や福利厚生プログラム、ワークライフ・バランス(WLB)など、従業員が企業に求める条件が高まり、企業側はこれに応える必要が急浮上する。あたりまえの話だ。
でも、本当に大切なことは、目に見える給与、福利厚生、WLBなどのハードシステムではなく、目につきづらいソフトシステムだ。それを文化や風土といってもよいだろう。
優秀な人財を吸引する人財開発に注力する文化、風土。組織ぐるみでとことん学習して改善やイノベーションを起こすラーニング・カルチャー。多職種が和気あいあいと協調して仕事をこなすコラボレーション・カルチャー。その職場で働くことが、健やかで健全な健康や幸せに結びつくかどうか。卓越を求める人財がさらに秀逸な存在になることを本気でサポートできるかどうか。そういった自己組織的につくりあげてゆかざるを得ないソフトな体質や文化がいっそう本質的に重要になってくる。
その本質的に重要なことがらのほんの一端を今月は「ウェルビーイングが必要とされる背景とその実現に向けた方策」として書いたばかりだ。7月に開かれた看護系の学会でも招待いただき、自己組織性とウェルビーイングの話をさせていただいた。
雑誌や学会からこのような執筆や講演のリクエストが来るのは、それだけ世の中にニーズがあるからだろう。
さて、人財確保の競争が激しくなる中、成長する企業は、単に給与の多寡だけでなく、働きやすい環境やキャリアアップの機会、社員のウェルビーイングを重視する企業文化を提供することが重要。エンゲージメントやウェルビーイングに力を入れる企業や病院は、優秀な人財を引きつけやすくなる。
逆にいえば、旧態依然のままで、エンゲージメントやウェルビーイングの涵養や増強を怠ると優秀な人財は櫛の歯がこぼれるように退職し、人財は集まらなくなってしまう。だから人財獲得・開発の競争激化に対応して、よき人財を採用して育成していくためには、ウェルビーイング文化こそが決めてとなる。ビックワードを使って「人的資本」と呼ぼうが「人的資源」と呼ぼうが、労働人口が目減りする時代においては、デキる人財獲得競争そして人財開発競争にならざるをえないのだ。
よく経営学界隈では、経営の資源として、ヒト、モノ、カネ、情報、時間、空間があげられる。これら経営に関する資源のアレンジメントが、人財というヒト中心にならざるをえないのだ。すると、経営学じたいも換骨奪胎を迫られ新しい経営学が求められるといいうことにもなるか?ウェルビーング経営学の登場か?
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