新著・チーム医療と多職種連携のシステム科学の再稿ゲラ

昨年12月から執筆してきた本の原稿の再稿ゲラをチェックしている。ゲラはアナログの極致で、赤のボールペンで手書きで加筆修正を書き入れてゆく。デジタル化が急激に、幅広く浸潤している出版界隈だが、編集者と著者の間の、最終段階の作業は、ゲラという紙に、ひたすら手書きで文字を書き込むというアナログの世界だ。

この本は、科研費研究で出したいくつかのペーパーが基礎になっている。その実証的な研究の基礎のうえに、さらに論考、考察などを加え1冊の内容となる。科研費で行ってきた実証的な研究がベースにあるので、「かくあるべし」、「~すべし」というような規範的な議論は二の次だ。

競争的資金である科研費は税金が原資である以上、めでたく採択されてからは、ひたすら成果をアウトプットすることが求められる。アウトプットすべきは、国際共著論文、日本語論文、著書、学会発表などだ。具体的な成果がアウトプットできない研究はダメな研究と見なされる、というわけだ。研究におけるメリットクラシー(成果主義)だ。

なので、科研費研究のマネジメントは成果に立脚したものとなる(ならざるを得ない)。具体的には、①ピリッとした実行可能な研究計画を作り込み、それに従って、②(クライアント病院と)研究プロジェクトを組成して、③サーベイをインプリメントし、④迅速にデータを収集し、分析し、⑤顧客にフィードバックし、⑥論文、書籍、学会発表までエイヤっと持ってゆく。コンサルティングは⑤で終わるが、研究プロジェクトは⑥が最重要。①、②、③、④、⑤の各スキルはコンサルティング・プロジェクト・マネジメントをこなしていれば身につくものだと思う。

科研費の採択可否で審査されるのは①だが、目が肥えた審査員は、審査する研究計画が、どの程度②~⑥に繋がる可能性を持っているかどうかも厳しく見定める。

成果をなるべくたくさん出してゆくには、計量的な研究デザインで、がんがんデータを収集して蓄積できるようにしておく。そのデータをもとに、分析を加え「情報」にして、さらに解釈し意味を加え「知識」がつまったペーパーに転換してゆく。これらが研究成果主義の陰影、ツボを押さえた、まっとうな研究者の仕事だろう。研究者たるもの論文を書いてナンボのものである。

さて、論文書きは、ジャーナル・アカデミズムが浸透しているアカデミアにおいては、研究者としての基礎体力のようなものだ。ただし、自然科学系はいざ知らず、社会科学系では、論文の生成をもって終着駅とはならない。論文の地平線のむこうに、本がある。

では、論文と本の違いとはなんだろう。

ペーパーと書物の違いは、そこに埋め込まれる知恵の分量ではなかろうか。論文を手にして読むとき、読者は知識を求める。本を読むときは、読者は知恵をわがものとすることを求める。願わくば、ひたすらデータ、情報、知識ばかりに訴えるのではなく、紙面に芳醇な「知恵」の香りが漂うことをもって、1冊の書物と成したいものだ。

その、最終的な知識転換作業が再稿ゲラへの朱入れだと思い定めれば、地味な作業に対するやる気も増すというものか。いずれにせよ、今年度いくつかの実証的な科研費研究の成果を取り込んで、「チーム医療と多職種連携のシステム科学~異界越境のすすめ~」が出版されるのは、7、8月あたりとなる予定。もう1冊の本も、同じころの出版となるか。

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