タコツボ積み上げ型組織の病院

<積みあがったタコツボ>

最近、外部から依頼される講演のテーマでは、多職種連携、チーム医療、コラボレーションに関わるものが増えてきた。

なぜだろう?

科研費で、多職種連携、チーム医療、コラボレーションに関する論文や本を少なからず書いているからか。否、おそらくは、病院や地域包括ケアでは、 多職種連携、チーム医療、コラボレーションが強く求められ喫緊の課題であるのにも拘わらず、ヘルスケア産業の体質の桎梏が、なかなかそれらを進めることを邪魔しているからだ。その悩みが巨大なのだ。そして、悩む当人たちは、フィールドのなかにどっぷり漬かっているので、その悩みの正体を客観視できずにいるからだ。

社会科学者として、ヘルスケア産業の体質の桎梏は分析対象として意味深い。

病院は、多様な臨床スキルの専門家が細分化されて配置されているタコツボの集合みたいなものだ。そして、多数ある専門分野のなかで医師タコツボが最強・最堅固。細分化された専門職種の間には有機的な交流は少ない。職場ではほんの数メートル先で仕事をしていても、心理的な距離は10kmくらいある。長年同じ病院に務めていても雑談さえしたこともない人々がたくさんいる。

なぜか?その理由は構造的で輻輳している。

まず、多様な専門家は、多様な養成課程(大学院・大学・短大・専門学校等)で、それぞれの専門家集団によって養成される。養成課程にも相互の交流が希薄。 大学院・大学・短大・専門学校等からしてタコツボなのだ。専門職は、養成課程、職場でそれぞれの専門学会・職能団体の専門性・知見にリンクする。それぞれの専門学会・職能団体もヨコの有機的な繋がり・交流が希薄。 専門学会・職能団体も多くの場合タコツボだ。

このように、医療専門職が関与する①養成課程、②病院の職場、③職能集団、④専門学会が、専門化・特化された①臨床スキル、②業務範囲、③価値観・行動規範、④学術的知見を多機関連携的に「強化」している。タコツボ体質の掛け算である。

多機関連携なタコツボ強化は、必然的に制度的なタコツボのさらなる細分化、分断化、フラグメンテーション化を生み出す。よって、病院や地域での職場でのコラボレーション、多職種連携は言われるほどに容易ではない。病院や地域包括ケアシステムにとって、多職種連携は大切なのだが、皮肉にも病院や地域包括ケアシステムの下部構造に、多機関連携的なタコツボ強化の慣性と陥穽が埋め込まれ、横たわっている。

専門性の多様性はイノベーションの母体だ。だが、せっかくの多様な専門性であっても、タコツボで分断されていたのでは宝の持ちぐれだ。じつにもったいない話だ。いきなり方法論に飛びつく前に、このような構造的な認識が大切だと思われる。急がば、まわれである。

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