医療・福祉・介護「ゼブラ」M&A戦略

「人口減少に対し過剰となると推定されている医療機関の病床を11万床削減することについて、自由民主党、公明党、日本維新の会が2025年6月6日に開催した社会保障改革に関する実務者協議で合意した。一般病床と療養病床で必要病床数を上回っている約5万6000床と、精神病床で基準病床数を超えている約5万3000床が対象となる」とのこと。

トランプ関税、中東情勢、AI相場第2幕等の陰に隠れて地味なテーマだが、内需中心のヘルスケア業界から見ると案外ビッグニュースだ。

この動向が、近未来どのように、医療介護サービス供給体制に影響を与えるのか?ヘルスケア経営学のレンズ、とりわけ「連携」の先にある「統合」つまり「M&Aのレンズ」からまとめてみる。患者や利用者のウェルビーイングを実現するために、サービス提供事業体のウェルビーイング(良い状態)が必要なところだ。ビジネスの成長と社会貢献、利益の確保と社会課題の解決。これらを両立させるのが、ゼブラM&A戦略だ。6つのマクロトレンドと4つのゼブラM&Aモデルを構想してみた。

① 売却・再編対象となる病院が加速度的に増える
収益性が低く過剰と認定された病床を持つ中小病院・医療法人がM&A市場に流入する可能性が高まるだろう。もちろん持ち分(株式)がない病院M&A市場は未熟だが背に腹は代えられない。

特に、療養病床を持つ慢性期病院や精神科単科病院は、「経営継続困難」→「売却」への流れが加速。経営難で苦しむよりはイグジットしてリタイヤ、または雇われ院長として続投というシナリオを選ぶ経営者=医師が増えるだろう。

② 有料老人ホーム・介護施設運営法人にとっての「買収好機」到来
地域包括ケアや看取り強化を進める介護法人(例:SOMPOケア、ユニマット、チャームケアなど)にとって、既存の病院インフラを取得し、地域密着型のケア拠点に再構成するM&A戦略が現実味を増す。

特に回復期・地域包括ケア病棟を併せ持つ小規模病院が、老人ホームとシナジーを利かせることになる。

③ 医療法人にとっては「機能分化・介護融合型法人化」に向かう圧力
医療法人にとっては「過剰病床の解消」が事業転換を迫られる契機となる。この契機をレバレッジとするか、スルーするかの差は大きい。

これにより、医療法人が特養・老健・サ高住との垂直統合を図るか、あるいは社福法人・介護事業者に売却して退出する流れが強まる。

④ 精神病床の削減は、民間セクターのケア移行圧力に直結
精神科病床の削減により、グループホーム、地域移行型住宅、在宅ケアモデルの需要が急増するだろう。

この需給変化に乗じて、精神科病院の土地や建物を取得した介護法人が「認知症対応型高齢者施設」「地域生活支援施設」に転換する動きが活性化する。

⑤ 土地付き病院物件の価格下落 → 投資型M&A促進
不採算病院が市場に放出されれば、土地付きの医療施設不動産が安値で取得可能になり、ヘルスケアREITや上場介護事業者が参入しやすくなる。

⑥ 財政誘導による「病院統合・縮小モデル」が標準化
この政策に合わせて、厚労省が「再編統合・転換型M&A」に補助金・税優遇措置を導入してくる可能性もある。すると、「買収後に回復期+看取り+訪問看護・介護に再構成」するモデルが資本的にも推奨される。

以上の6つの潮流を受けて、病院×福祉施設のM&A戦略モデルとしては、4つくらい想定できる。

その1:「縮小病床×高齢者住宅」複合再編モデル
◉ 対象:

疎開型中小病院(150床以下)
特に療養病床・精神病床中心で、地域包括ケア病棟を持たない

◉ 買い手候補:
有料老人ホーム運営法人(SOMPOケア、チャームケア、ユニマット等)

サ高住・看取り特化型施設の運営法人
社会福祉法人(在宅支援重視)

◉ 統合後の構想:
療養病床部分をサ高住(サービス付き高齢者住宅)や看取り型有料老人ホームに転換

一部は訪問看護・訪問介護ステーションを併設

建物・インフラは再利用、医療法人から医療スタッフを業務委託

その2:「回復期×介護リハ施設」シナジーモデル

◉ 対象:
回復期リハビリテーション病棟を有する中堅病院(200床前後)

機能分化により急性期から脱落しつつある医療法人

◉ 買い手候補:
介護老人保健施設(老健)運営法人

地域密着型包括ケア実践法人(医療×介護の複合経営)

◉ 統合後の構想:
回復期病棟は維持しつつ、在宅復帰支援センターとしての機能強化

外来リハ・通所リハ・訪問リハを一体的に整備し、地域包括ケアの中核機関へ

法人内に「介護付き住宅」「グループホーム」「居宅支援」を併設

その3:「精神病床削減×生活支援施設」転換モデル

◉ 対象:
精神科病院(精神病床200~300床)で、基準病床数を大きく超過している病院

認知症高齢者や慢性統合失調症患者を長期入院させている施設

◉ 買い手候補:
社会福祉法人(障害・高齢両分野の地域移行支援に強い)

民間の地域密着型生活支援施設(認知症対応・グループホーム系)

◉ 統合後の構想:
病床を削減しつつ、精神障害・認知症高齢者の地域生活支援拠点へ

グループホーム、相談支援センター、地域生活移行センターへ転換

精神科医療の一部は訪問診療・在宅医療へ移行

その4:「医療法人×福祉法人」水平統合型モデル(共同持株的再編)

◉ 対象:
小規模な医療法人(急性期脱落)と介護福祉法人(病床を持たない)との提携・統合

◉ 双方のメリット:
医療法人は将来の縮小リスクを軽減しつつ地域包括ケアに貢献

福祉法人は医師・医療インフラを取り込み、医療対応型複合施設を実現

◉ 統合後の構想:
組織としては、ホールディング法人型(持株会社、社会福祉連携推進法人)の設立

「医療・介護・地域福祉」を三位一体で提供できるガバナンス体制構築

例:病院法人が福祉法人の理事に参画し、共同で地域事業展開

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