
先日、ありがたいことにオン・オフで数千人集まる「日本看護サミット」なる仰々しい舞台で「ウェルビーイングと組織行動」についてトークの依頼を受けた。こないだ上梓した新著もウェルビーイングに関するもので、拙著を出してくれた出版社も日本看護協会出版会なので、ひとつの流れに乗っているようだが、光栄なことである。しかし、先方からのオーダーにはこう添えられていた。「前日の夜から横浜に来て、こちらの指定するホテルに入っていただきたい」と。
なるほど。これはVIP待遇と呼ぶべきか、はたまた大人の缶詰状態と呼ぶべきか。いずれにせよ、私は言われるがままに車を走らせ、指定された横浜のホテルへとチェックインした。ホテルの窓からは、黄昏る港の風景が広がっていた。

予期せぬ再会と、見事なまでの「非効率」
前夜に待ち受けていたのは懇親会である。正直なところ「明日の本番だけでよくないか?」という野暮な心の声が漏れそうになったが、ここでちょっとしたサプライズがあった。偶然にも旧知の友人と遭遇したのである。久々の再会に大いに花が咲き、結果として「まあ、前乗りも悪くないな」とあっさり機嫌を直す現金な自分がいた。
そして迎えたサミット当日。いよいよ私の出番である。 与えられたプレゼンテーションの持ち時間は……なんと、わずか「15分」であった。
ちょっと待ってほしい。 たった15分喋るために、わざわざ車で横浜を往復し、前夜からホテルに泊まり込み、懇親会までフルコースで参加したのである。現代人が愛してやまない「タイパ(タイムパフォーマンス)」という概念を、真っ向から粉砕するような見事なまでの非効率っぷりではないか。Zoomなら移動時間ゼロで終わる時代に、なんという贅沢(?)な時間の使い方だろうか。
「遊行期」の作法:非効率は怒るな、愉しめ
若かりし頃の私なら「いささか非効率すぎないか?」と眉間にシワを寄せていたかもしれない。しかし、ここで目くじらを立ててはいけないのだ。なぜなら、いまの私には「遊行期(ゆぎょうき)」のマインドセットがインストールされているからである。
効率ばかりを血眼になって追い求めるのは、現役バリバリの時期だけでいい。人生の秋とも言える遊行期においては、この「非効率をあっさりと受け入れ、むしろその無駄を楽しむ姿勢」こそが必須のマインドセットなのだ。「なんだよ、たった15分かよ」と腐るのではなく、「15分のためにこれだけの手間暇をかける、この壮大な無駄を全力で愉しむのだ!」と。
非効率の先で得た、極上のリターン
そうやって達観した境地で(?)臨んだ看護サミットであったが、結論から言えば、素晴らしい時間となったので幸いであった。国内外から集まったその道の第一人者たちと直接意見を交わし、彼らの最前線の見識をナマでだだっ広いパシフィコ横浜国立大ホールの最前列で聞くことができたのである。結果として私の知見は大いに拡がり、15分のトークのために費やした時間と労力を補って余りある、巨大な「お釣り」が複利でドサッと返ってきた気分だ。
効率だけを追い求めて、この機会を断っていたら(実際、断る一歩手前だった・・・)、旧友との美味い酒も、第一人者たちとの熱を帯びた対話も得られなかっただろう。非効率の先には、効率では決して辿り着けない豊かな世界が広がっている。 ……と、なんだか綺麗にまとまってしまったが、帰りの車の運転だけはやっぱり少しだけ疲れたことは、こっそり記しておこう。

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