コンサルとアカデミアを結ぶ在野研究者の著作

<コーネル大学の風景>

同じ時代に大学院を修了し、その後アメリカ系のコンサルティング・ファームに参画し、キャリアを積んでから会社を起業し、エグジットしてから大学教授(講師や准教授ではなく教授)をやっている友人と久しぶりに飲んで語らった。

似ている者同士は、やはり話が弾むものだ。

2人を合わせると、外資系コンサルファームに在籍した友人、直接・間接の知人はざっと100人はいる。この約100人を観察して、一般化できるものは一般化しつつ、 コンサルティングとアカデミアの関係やものを書くことについて考量してみよう。

(1)アカデミアをリファーしてコンサルタントの仕事は成立する

クライアントが持つ課題は多様だ。ビジネスプロセスを刷新したい。新規事業の成功活率を劇的にあげたい。組織風土を活性化したい。イノベーション適応型の組織にしたい。メリハリの利いた人事システム(評価システム、賃金システム、登用制度など)をデザインして運用したい、など。

このような課題を解決するときに、知的なスパーリングパートナーや触媒としてコンサルタントは雇われる。コンサルタントが参照するデータ、情報、知識基盤は、だいたい3種類ほどある。①顧客が保有するもの、あるいは、コンサルタントが持つツールで抽出されたクライアントのナレッジ・ベースだ。②コンサルティングファームがそれぞれにもつ、独自の知識体系(方法論、実行形式、グローバルネットワーク、業界の特殊な知識ベースなど)だ。③アカデミアで生成されてきたベーシックな理論、モデル、汎用的なソリューションだ。

②と③はアカデミックな所作の成果である。したがって、 理論、モデル、仮説構築方法、方法論など、アカデミックな成果をリファーしてコンサルタントの仕事は成立する 。もちろん、①顧客組織内部のどろどろや政治状況に関する肉迫度(これを顧客密着と言い換えてもいい)も重要なエレメントだが、ここのみに長けた人物で大成したコンサルタントはほとんどいない。

(2)外資系コンサルファームはエリート記号がお好き?

上に書いた②を短期間に習得して活用するには、ある程度の地アタマの良さとマネジメントに関する一定のトレーニングが必要だ。だから、大概の外資系コンサルファームは、アメリカなら、アイビーリーグ、スタンフォード、MIT、シカゴ、ノースウェスタン、デューク、UCバークレイなど、欧州ならINSEADやLBSを含むトップティアの大学院卒(MBA、コンピュータサイエンス、データサイエンス、デザイン系など)を優先的に採用する。現在は、シンガポールを含める中国語圏の大学院が人気である。

グローバル企業向けのコンサル案件では、足腰の強い、コモディティレベルを超えた英語コミュニケーション力は必須。だから必然的に英語圏の大学出身者は今も昔も少なくともエントリーの時は有利だ。

こういう連中ならば、③の基礎ができているので、②の飲み込みや応用も早いという期待(幻想)があるのだろう。また、こういう連中は、こういう連中同士、共通言語もあるし、同業界や大学、研究所、グローバル企業の幹部などの人脈もあるので、新規顧客の開拓にも有利に働くという算段もあることだろう。

ただし、こういう外形的な記号を持ち合わせていても、意外にとろかったり(つまり学校秀才の域をでない)エキセントリックなキャラのためうまく客と良好な関係を構築できないと、3年と持たずに、o解雇されてゆくコンサルタントが多いのも事実である。

(3)きちんとした本を書くコンサルタントはサバイブする

ある程度成功したコンサルタント(社内での売り上げ実績トップ10%以内を常時維持、有力な顧客に対して良質のコンサルティングを提供し、リピート案件を蓄積、独自でコンサルのメソドロジーを構築し、ある程度普及などの成果があるコンサルタント、コンサルタントの後のキャリアで新しい境地を開拓している人)は、なにが違うのだろうか?

その大きな決定的な一つのファクターは、研究である。言い換えれば、凡百のコンサルタントが持たないような独自で大きな探求テーマだ。「利益が確実に上がるビジネスモデリングのパターンとはなにか?」といった現実的なリサーチ・クエスチョンでもいいし、「新自由主義に立脚したメリットクラシーは日本企業内で齟齬なく機能しうるか?」、「真に汎用的なビジネススキルとはいったい何なのか?」 といった「問い」でもいい。

経営コンサルティングというプロフェッショナルな行き方は、企業の経営現場に入り込み、課題を設定して解決してゆく。実は解決したのか、解決したと信じさせるのか、は大いに議論が必要な部分ではなるが、ここでは省く。

経営や経営学は経営のリアルと不可分、不即不離の関係にあるので、福沢諭吉風にいえば「実学」だ。だから、この実践レイヤーに愚直にとどまるべきという見方はいささか表面的だ。レイヤーをやや昇華あるいは意図的に逸脱・転換させて、真善美、哲学、宗教を議論するような抽象度を高める文脈転換が効いてくる。

さて、顧客の獲得、契約書のアレンジ、コンサルティングワーク、ビリング(稼働率を高めに維持すること)など目先の仕事とは別レイヤーで、こうしたクエスチョンを抱きつつコンサルティングをしていると、見えてくるものが確実にある。

クライアントワークから見えてくる共通パターン、新しい発見、着想がある閾値に達すると、論文や書籍を刊行するような流れになる。あまり大きな声では語られないが、外資系コンサル業界では、10人から15人に1人くらいの割合で学術論文や研究書(おおくは研究書のテーストを持つビジネス書)の著者になっている。

このような知的アウトプットを出すと、さらにそれらが潜在顧客の目にとまったり、顧客獲得の際には有効なツールになりうる。自己のヒューマンキャピタル(専門家としての根拠に基づいた知識やスキル、エクスパティーズ)の正当性を顕示すると同時に、人脈、信頼を含む社会関係資本を潤沢なものにするような働きが出版にはあるのだろう。 このような機序が発現し、きちんとした本を書くコンサルタントはサバイブすることになる。

(4)コンサルから生み出す著作業績はアカデミアでもカウントされる

友人もおれも、アメリカ系コンサルティングファームで仕事をしているときに寸暇を惜しんで数冊の本を書いている。奇遇ながら、ベンチャー企業を起業してイグジットして、現在は大学に籍を置き、教育研究の場にいる。

この友人の凄いところは、彼が書き綴った本は中国語と韓国語に翻訳されてかの地でも多くの読者を獲得していることだ。

さて、結論からいうと、コンサルティングファーム在職中に書いた研究書は大学へのエントリー人事においても業績としてカウントされる。もちろんエッセーや所感を束ねたような、よくあるビジネス本やノウハウ本はカウントされないので注意が必要だ。

リサーチクエスションを明確に示し、先行研究をリファーし、根拠を明確に示し、実証的なデータや参与観察の結果を学術的に示し、豊富な引用文献を示し、独自の理論やモデルを提示し得ている内容であることを心がけよう。

そのためには、コンサルをやりながら、在野研究者(independent researcher)を兼業するようなマインドセットを持つがよい。

18歳人口が激減する市場にあって、今後、社会人のリカレント学習の場として新しいスタイルの大学院が注目されている。オワコン化が危惧されるものの、いわゆるMBAやMOT(技術経営)、さらには、イノベーション、デザイン、起業、社会イノベーションを主軸にしたようなプロフェッショナル向けの大学院では、このような業績も正当に評価されるので、その向きにキャリアを伸ばしたいコンサルタントは、著作活動に励むのはよいことだと思われる。

在野研究者的著作スタイルは、書作物という成果を世に出すことによって、コンサルティングとアカデミカを結びつけることになる。ようはコンサルティングのみならず、シンクタンク、会計、税務、法務、知的財産、デザイン、各種調査、広告代理、ウェブ技術、インフォマティクスなど、いろいろな知識集約的な仕事が当てはまるだろう。

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